9月は近場の愛知県芸術大学、幸兵衛窯と岐阜現代陶芸美術館と聞いたが、愛知県芸術大学は愛知万博会場に行く途中にあることくらいしか予備知識はなかった。 しかし此処では焼損した法隆寺金堂の壁画の模写を行なっていて、展示がされていた。 勿論、現在の法隆寺の金堂は再建されて壁面には模写された壁画がかかっており、これは奈良に住んでいた時に何度も(10回以上)見たし、焼損した壁面をはずしたものの写真(実物は大宝蔵殿のとなりの収蔵庫に保管されている)を見て、模写作業中の不注意で千数百年大切に保存されてきたこれ等の絵を、見るも無残な姿にしたことを本当に残念なことと思ったものです。 すでに完成した模写が法隆寺金堂にあるのに、なぜまた模写をして展示されいるのかと思いましたが、愛知県芸術大学の法隆寺壁画模写展示館を実際に見て、やはりこれはこれで大きな意味があると理解できました。 法隆寺に行かれた方はお分かりと思いますが、金堂に入っても壁画の前には行けず、外陣の周囲の裳階(もこし)と呼ばれる廂(ひさし)部分にしか入れず、外陣内部はかなり薄暗い上に太い格子がはまっていて見る方向も限られて細かくは見ることが出来ません。 それで法隆寺に行っても結局壁画をじっくり見られるのは宝蔵殿に展示されている写真ということになります。 愛知県芸術大学の法隆寺壁画模写展示館では実際に模写した壁画の実物を適度の照明のもとで間近に見ることが出来、壁画そのもの鑑賞という意味ではこちらのほうが絵の具の色合いとか損傷・汚損(火災以前の)な確認などもはっきり出来ます。 今回は河井重政先生に解説をしていただきながらの鑑賞でしたので、それぞれの尊像の主題、火災前の損傷の原因などのほかに、模写に使った絵の具の材質(火災に遭った壁画のを分析したとのこと)、模写の技法として点描を使ったこと(大勢で共同作業をするので線描にすると人それぞれの癖が出て統一感が出せないからとのこと)などを聞いた。 また展示館鑑賞の後、隣接する模写作業場に案内していただいたが、此処では法華寺蔵の絵画などの模写が行なわれていた。 数人の若い人たちが非常に細かい作業を静かに行なっておられたのが印象的でした。 大学内も見せていただいたが、学生さんたちの姿が殆ど見られなかったので休日かと思うほどでした。 法隆寺金堂壁画の模写作業はこの大学だけでなく、東京藝術大学でも行なわれていてこれが東京都の台東区ヴァーチャル美術館で公開されています。 また、法隆寺金堂の壁画は明治時代からその貴重さが認識され、昭和15年から国家的事業として当時の一流の画家を動員して模写が始められたが戦争で中断し、戦後すぐ再開した時に火災が発生しその姿を失うことになってしまったのであるが、戦前模写を始めるにあたって京都の美術書出版社である便利堂が昭和10年に撮影した精密な原寸大モノクロ写真と、また同時に撮影した三色分解法による写真が幸いにも残されており、これがすべての模写の原点になっている。 東京大学総合研究博物館デジタルミュージアムには、便利堂の撮影した写真を基にしたデジタル映像が 収められており詳しく見ることが出来る。 また法隆寺金堂壁画ギャラリーというサイトもある。 |
法隆寺金堂壁が模写展示館のパンフレット 画像部分をクリックすると拡大表示されます |
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同上裏面 画像部分・説明部分をそれぞれクリックすると拡大表示されます |